無線電信の巧みと技

William G.Pierpont N0HFF

-改訂2版-

第20章 アメリカンモールスの学習

 
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比較
ここでは他の符号の学習をどう進めるか考えます。私達の大半はインターナショナルコード(以前は「コンチネンタルコード」と呼んでいた)は知っていますが、古い(アメリカン)有線モールスコードをどのように学習すればよいのでしょうか。目的は只一つ、両者の違いを示すことです、特に符号を構成するスペースと長点の長さの特殊性について。それらはリズムに影響します。

先ず、アメリカンコードはインターナショナルコードと次の様に比較できます:

 1)両者共通の文字 (アルファベットの2/3
     
A B D E G H I K M N S T U V W  4

 2)対応する文字・数字・記号が相違するもの:
      アメリカンモールス:F J Q P X 1 5 7 8 9 . ?
      インターナショナル:R C F 5 L P o Z 6 X ? /

 3)  アメリカンモールスのいくつかには符号内にスペースがある
     
そのため別の2文字と間違えやすい
     
  C    O    R    Y    Z  は次のように聞こえる
       IE   EE   EI   II   SE

  4)  アメリカンのいくつかはインターナショナルと全く違う
     
L = 長めの長点、  0 (ゼロ)= もっと長い長点 (下記参照)
     次の数字はアメリカンとインターナショナルで異なります
     :
2  3  6.

以上にはその他の記号は省略しましたがかなりの違いがあり、そういう記号類はかつての有線通信で特に多用されました。それを学習するのは大変です。
 

タイミング
インターナショナルコードに比べ、アメリカンコードには厳格なタイミングの「基準」が無いようです。つまり、通常の長点の長さが2から3倍の長さで変わるのです。(私の個人的印象ではそれはインターナショナルの長点に比較すると幾分短い傾向があり、その理由は時間を節約しながら短点と明確に区別でき、通常の長点の約2倍の長さにした
""と意識的に区別するためであったと考えます。)重要なことは、"E" "L" "T"を明確に区別することでした。 ゼロ(0) は相手が間違えそうなときはわざと "L"よりも長くされましたが、そうでないときは同じ位の長さでもOKでした。("L" 4 単位と同じ位短い場合もあれば、7 単位ほど長い場合もあり、ゼロが 5 単位と同じ位短い場合もあれば、10 単位ほど長い場合もありました。 スペースの取り方にもより良いやり方があったようです。)

重要なことは「これはコミュニケーションである。送信は一回だけにすべきである。再送するということは時間と金を浪費することである。単語と数字が明確に受け手に理解されるか。」ということです。 プロの電信士の評価尺度は1に正確なこと2にスピードでした。

同様に、符号内にスペースを持つ文字 (上記3参照) のそれは通常2短点相当といわれていますが、明確に違いがわかればもっと短くする傾向がありました。文字同士の間隔は通常3~4短点相当、単語間は4~6短点といったところでした。符号の組み合わせ状況に応じて、内部スペースを持つ符号の前後は若干広めのスペースを開けることがあったようです。繰り返しになりますが、これらの程度は当事者オペレータ双方の技量によって変化する傾向がありました。目標は常に最小の送信時間で完璧にコピーすることであり、(符号の構成に関しては)個々のオペレータの裁量に任せられる部分が大きかったのです。正確な比率は要求されないけれども、非常に短いキーの上下が要求されるもの(例えば"telegraph""jgraph"とコピーされてしまう)があり、いかにアメリカンコードがインターナショナルコードに比べタイミングに影響される符号であるかの例といえます。

混乱する必要はありません
アメリカンコードとインターナショナルコードを見分ける一般的な特徴は3つあります:

第一印象として、ある文字は同じある文字は違うことで二つのコードを学習しようとするととても混乱してしまいます。気を取り直しましょう。旧テレプレクス社の熟練教師であったR.  J. Miller氏は1942年の書簡で次のように書いています:「一つのコードの熟練者であれば、例えばアメリカンコード、その人はコンチネンタルコードを10日ないし2週間でアメリカンコード同様に扱えるようになる。これはその人の精神が早い音を認識するよう既に訓練されているからです。この理論は何回も証明されています。」

彼の言葉を聴きましょう:「熟練者」と「彼の精神が早い音を認識するように訓練されている」。これは平凡な言葉ではありません。一つのコードに既に熟練しているオペレータは彼の精神内で速い速度の符号が聞こえたら即座に認識するようによく訓練されているため学習が非常に早くうまく行くのです。Miller氏が言った「熟練者」少なくとも当時のプロの無線オペレータの技量を持つものと考えています。言いかえれば、25~35wpmを容易に扱える者と言い換えてもよいでしょう。

以上のことから我々のように技量はないけれどアメリカンコードを習得したいと思うものは、少しばかり余計に時間がかかるであろうと考えられます。(即座に文字を認識すると言う技術がキーポイントであることから、我々第二のコードを学習している者にとって既に習得しているコードの方も上達する可能性があると言えるでしょうか。)

 
それを学習すること
アメリカンコードの学習にどう取り組めばいいでしょう。 先ず、正しい送信を聞かなければなりません、なぜならリズムが異なるからです。お空でそれを認識するのは少してこずるかもしれません。その特殊なリズムと「短点勝ち」な特徴ですぐに区別は出来るのですが。でも、かなりの単語が理解できるはずです、なぜなら同じ音の符号がかなりあるからです。(例えば、"and, the, it, but, these, thing,"などです)これらは覚えなくて良いので助かります。符号を聴いてその変化を感じてください、そして自ら熟練者のキーイングを真似てください。そうすることで音感が強化されます。

次にあげることを考えてみてください:

1)混乱するのではと考えない:長年の間、様々な技能レベルのオペレータが二つのコードを難無く使い分けてきました。「無線」電信の黎明期にもプロのオペレータは上手い下手に関係無く皆両方の符号を扱うことを要求されました。

2)あなたは既にアルファベットの3分の2と、数字の1つを知っています:だからそれらに特別気を払う必要がありません。

3)違いのある文字だけ考えましょう。1文字ずつ明確に分けて覚えましょう。混ぜたり比べたりしてはなりません。(例えば、インターナショナルコードの"C" がアメリカンコードの"J"というふうに覚えてはだめです) 信号の合間に余計なものを介入させてはなりません、常に聞いたら即座に認識するためです。(英語と同等にドイツ語が出来る人は、 ch という文字が違う発音であることを知っていますが全く混乱しません。それと同じように考える必要があります。)

4)アメリカンコードを覚えるのはインターナショナルコードを覚えるよりずっと簡単であることを思い出すことです。なぜなら学習がどのように進むのか知っているし、多くの人達がせいこしてきたことを知っているからです。このことは私達に大きな励みと自身を与えてくれます。

両符号の熟練者からのある優れた指摘がいくつかあります。その一つはサイドトーンの代わりに符号音響器を使って、アメリカンコードがインターナショナルコードと全く違う音として聞こえる環境を作ることです。(この場合、音響器による受信に慣れる必要があります。下記参照。)音響器を使うつもりがないなら、この練習をする利点はありません。方法による利点は無いという一部のオペレータもいます。

ですから混乱する必要は全くありません。我々は古いコード(我々には新しいものですが)を今までのやり方で自信を持って学習すれば良いのです。おそらく、両方のコードをずっと昔に学習したOTたちが彼らの経験からさらにアドバイスをしてくれるかもしれません。

[アメリカンモールスの本格的送信テープがCecil Langdoc, 201 Homan Ave.  Elkhart IN 46516 で今でも入手できます。]

鉄道電信士の物語です――ある駆出しオペレータがバグキーで出来る限りの早さで送信していたら、他のオペレータが割り込んできました、駆出しオペには次のように聞こえました"REND STOW IMA GIRT"。彼は再送を要求しましたが、同じようにしかコピーできません。彼は上司に「このオペレータはどうかしているんじゃないか」と尋ねると、返事は「何もおかしくない。彼女は 'Send slow I'm a girl.'  と言っているだけだ。君はRとS、TとLの違いを覚えないといけない。 学校で教わらなかったのか?」

すべて短点でできた文例があります:Her Irish eyes cry cos she is so sorry.

 
音響器による受信
音響器による受信はトーンやブザーなどより難しいわけではありません。単に「違う」だけです。音響器は電鍵の動きに対応する2種類の「クリック」音を発生するものです。キーダウンに対しては鋭い(高音の)クリックを発生し「ON」信号の始まりを示します。キーアップに対しては鈍い音で信号の終わり「OFF」を示します。両者(ON-OFF)の間に挿入される沈黙の長さは符号の長さを示し、短点と長点の区別をします。最初は短点の連続から始めて、次に長点の練習を慣れるまでやります、さらに一般的な単語を聴きなれるまで練習します。(両者のコードで共通の文字を使います――上述1参照)おそらくあなたは面白くやりがいがあると感じるでしょう。

アメリカンモールスは空電や妨害の全くあるいはほとんど無い有線電信の為に考案されました。インターナショナルコードが考案されヨーロッパで採用されたのはアメリカで無線電信にアメリカンコードが使われはじめたわずか5年後のことでした。インターナショナルが主流になった理由には2つの要素があったと考えられます:1つはその性質上「短点過多」のアメリカンコードはインターナショナルコードに比べて空電と紛らわしく聞こえてしまう傾向があったこと、もう一つは国際航行船の無線通信における共通のコードの必要性に迫られたことです。このことは、国際商業通信業務とアマチュア業務が一般的になるにつれ益々必須のものとなったのです。

 
アメリカンモールス-その芸術性
アメリカンモールスはそれに従事する多くの人達にとって美しいもの、芸術作品と考えられています。あるOT曰く、音響器を「完璧なチューンをとって鳴らすことは、その完璧なまでの美しさからすれば精密に調整された飛行機のエンジンのそれよりも美しい。」
 

その他の比較
もし同じ基本単位時間の符号(1短点と1スペース)を使った場合、熟練したアメリカンモールスのオペレータは同じ文章を送るのにインターナショナルコードのオペレータより先に終わってしまいます。メッセージはアメリカンコードの方が実に45%インターナショナルコードより早く扱えます。

  *)ここで、熟練オペレータは(既に述べたように)インターナショナルコードより短めの長点とスペースを使います。これが、平均して73%に短くなっている文字と、同65%の数字とあいまって、前述した10%早いという引用との相違となっています。

従って、アメリカンモールスオペレータの送信速度を語るときは同等のインターナショナルコードによる速度よりは控えめに考えるべきです。でも、同じものを受信する場合はアメリカンコードの方がわずかな違いを区別する能力がインターナショナルコードのそれよりも要求されます。

さらに、同じメッセージを送信し終わったときに、アメリカンコードのオペレータはインターナショナルコードのオペレータに比べて約91%の電鍵操作と約85%の総合エネルギー消費で済みます。

これらの利点は費用にも反映してきます。先ず、アメリカンモールスのオペレータはインターナショナルコードのオペレータより繊細に音の違いを区別することを習得しなければなりません。彼は内部にスペースを持つ符号(C O R Y Z)や長めの長点符号(L とゼロ)を容易に認識でき、文字間や単語間の短めのスペーシングに対応しなければなりません。 さらには、電信局の音響器による受信と、空電や干渉で符号の一部が欠落したオンエア-信号の受信とが大きく異なるという問題もありました。

スペースを含んだ文字や短めの長点などアメリカンコードは無線という使用環境では規則正しいインターナショナルコードと対照的に曖昧さが目立つこととなりました。アメリカンコードで無線電信をしたオペレータはインターバル(「ON」信号とスペースの)を長く(強調しすぎる)傾向があったのではないかと考えます。もしそうだったら、時間的利点は無くなります。
 

 
いくつかの練習材料

両コード共通の文字を含む単語: (a e i u  b d g h k m n s t v w)

the and end man men view stew must mist missed kid king thing dig dumb  sing sting stub hide side vast waste waist medium wide stab tug aim bug tame name magnet tube gust huge India ink sink had mad made human magnitude dean heat hum ham him sad dash dish shade gush bush hush mash smash biggest mug hug bag sag wag stage wages vague stag that tug heed head hasten skate hate date night might kite fight invite begin began behave behead aghast mane tame inane game wane hank bank stink wink
 

アメリカンモールス特有の文字だけを含む単語:

短点のみ:

cheese choose coop cop cope copper copy core creep creepy crop cross cry echo eyes hoe hope horse hose ice ooze peer pie pieces pose precise press price prize prose recess repose rice ripe rope Roy seer seize series she sheer shoe shy size sore spice spree spy yippy zero zoo

アメリカンモールス特有の文字のみ:

clop  color  crop off  for  joy  fly  lop  offer plop  roll jolly

アメリカンモールス特有文字+母音:

all aloe career clap clay clear cliff clip clique collar cruel equip expire explore fall fall fill fizzle flail flare fly for full fail jail jeer jello joy jury leap lily lop oil opera pear peel place play  quail queer quip quiz  rap reaper repair rill roll xray year zeal

                     

MILL 72a (モールス練習ソフト)の取り扱い説明書にある作者 Jim Farrior(彼はアメリカンモールスから始めた)の言葉から:

アメリカンモールスの送信方法にはオペレータによっていろんなバリエーションがあります。しかも確固たる標準と言うものがありません。標準というものはありませんが、2短点間に長めのスペースを入れる符号と単語間スペースが1単位より短めであることを除けば、インターナショナルコードの標準操作と同じと考えても良いでしょう。アメリカンコードの L は標準長点の約2倍、同じく ゼロ は約3倍の長さの長点を使います。したがって、敢えてアメリカンコードの標準をあげるならば、短点=1単位、通常スペース=1、特殊スペース=2、長点=3、L=6、ゼロ=9、文字間スペース=3、単語間スペース=6、となります。

私はアメリカンモールスの練習に余り時間をかけなかったけれども、長さの変わる長点の区別や中にスペースを持つ符号の認識はEやIを認識するように無意識に出来るものではありません。

私の疑問は、長い間私は不規則なインターナショナルコードを受信しようと試みてきたため小さな符号やスペースの長さの違いを認識する能力が鈍ってしまったようです――アメリカンモールスのオペレータも同様だったら生活できなかったのではないかと思うのです。不規則に変化するインターナショナルコードを彼らが聞いた日にはぞっとしたことでしょう。(短点を引きずったり、長点をはしょったり、文字間隔に注意を払わなかったりした不規則な符号を理解するには大変な努力が必要です。)
 

 
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