無線電信の巧みと技

William G.Pierpont N0HFF

-改訂2版-

第21章 お薦めできない方法

 

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学習の仕方には効果的なものとそうでないものがあります。より簡単で、より良い方法があるのに難しい方法を選択するのはばかげています。

 
古くて難しい方法
19世紀後半に遡ると、最高の電信技師要請学校でさえ新入生にモールス符号を教える際に印刷した符号表を渡して視覚的に「記憶」させていました。 おかげで符号習得は難しく、時間がかかりました。だから学生は余裕があれば電信学校に行こうとしました。つまり最初から最悪のやり方をとる覚悟をしたと言うわけです。

この傾向は自然と初期のアマチュア無線にも受け継がれ、長い間続きました。全てが「難しい」という雰囲気でした。 今だにそんな考え方をしている人達はいないでしょうか。 「難しい」という思考にふたをすることです‐‐難しくないのです。古い考え方が全くもって間違っていることを経験が証明しています。符号を覚えること、使うことは楽しい経験であるはずです、簡単で「面白い」ことでさえあります。

視覚化した記憶方や短点と長点をカウントする記憶方法を行なうと必ずやある一定レベルで「高原:プラトゥー」に達してしまいます。それは意識的に符号認識が出来る限界が7~10wpmあたりであるからです。それは本当に無益で、私達にとって不利に働いているのに、なぜ誰も意識的認識方法から抜け出すことが出来ないのでしょう。一つ明らかな理由は、より良い方法を知らないということです。

古典的な学習方法の特徴を列挙すると、学習者は

なんと不器用でぎこちないやり方でしょう。
George Hart1975年8月号のQST誌で書いているようにその頃まで、ほとんどの人達がモールス符号を「短点」と「長点」あるいは「トン」と「ツー」の組み合わせとしてアルファベットを覚えることからスタートしていました。 啓蒙的なインストラクターによって、例えばAという符号は短点のあとに長点がくるというふうに覚えるのではなく「トツー」という音声として覚えるべきであると警告された人達でさえも、「短い音の後に長い音が来る」というふうな覚え方を常々していました。このようにほとんどの人達が符号学習の初期段階において、「数える」という手順を取り、「音」そのものに力点を置くことをしませんでした。 これはとても残念なことです。彼は符号を学習するには、数えることが出来ないくらいはやい符号を聞いてそれを音のリズムの単位として、音のパターンとしてとらえる練習をするよう指摘しています。これは現在ARRLの符号練習プログラムで行われている方法です。

その他の残念な例
実に多くの人達が今ではお薦めできない方法で符号をマスターしました。でもそのために多くの費用と時間と努力を使い、学習過程においてしばしば大きな落胆を経験しました。 彼らは多くの障壁を乗り越えて成功を手にしました。 しかし、数えきれないほどの人達が障壁に遭遇し、せいぜい10~12wpm程度の早さであきらめています。

長年かけて様々な種類の符号記憶法が考案され、そのいくつかは実に巧妙なものです。しかし、そのほとんどにある種のビジュアル化の要素が含まれており、符号の構成を絵で表したりある符号から別の符号に関連付けたりするものです。文字から連想する言葉と符号の語路合せ(いわゆる合調法)というのもあります。そういった方法は緊急避難的にモールス信号が必要になるような人にとっては助けになるでしょうが、通常の無線通信をするためには使わ無い方がましです。

符号を目に見える形で表記しなければならない理由は何もありません。決して「トンたすツーはA」という風に変換してから書いたり、「ツートツート」と聞いて自分自身に「ああこれはCだ」といってから書きとめたりしてはなりません、必ず問題にぶち当たりますそれは「変換」をしてしまっているということです。

これら良く使われる符号記憶法のほとんどは符号が音のアルファベットであるという事実を見落としていました。これらの方法は音声文字(符号)から文字に変換する過程に別の何かを挿入介在させてしてしまうものです。そしてそのほとんどが、耳ではなく視覚を介在させています。たとえ音声を使うという趣旨であっても(合調法のような方法は)必要な音声パターンの一致が得られないと失敗します。(スピードが遅すぎること、それに合調法は異質で気を逸らすものであることが問題です) どの方法も「変換」というよけいなステップが必要になります。 それらは短点と長点の数を数えたりの「分析」過程など何がしか不必要なステップを含み、学習者の到達度を5~10wpm程度に限定してしまうものであり、そういうことを避けなければなりません。

非常に多くの人達がプリントされた符号表で覚えたため、頭の中で短点と長点を数えてしまう悪い癖が付いています。さらに、Bと6や1とJなど、より長い符号を区別するための解読が必要になります。一部のこれらのハムは多くの練習と、問題点の把握によってスピードのプラト-を克服できています。(私は元海軍通信士のベテランハムがこのようにして20wpmまで達したが、それが彼の限界であったことを知っています。彼はモールス符号を愛していたが、それ以上上達はできなかった。それが彼が分析することの出来る限界であったのです。)

合調法で覚えた人達は、(例えば「トツー」とくれば「alike」のように音の調子に合う単語に当てはめ、Aを意味すると教わる[訳者注:日本ではAに対し亜鈴と当てはめる])10wpmさえも達するのが難しい場合があります。

長年にわたり非常に広く知られた初心者向けの教習方法に"Eat Another Raw Lemon"というのがあって、生徒に対し4つの文字E A R Lがどのように構成されているかを教えるもので、ある文字が他の文字の構成要素になっていると関連付けをします。おおきな短点と長点のイラストを使うものでした。この方法でスタートした人にとってはそれでよかったのでしょう、少なくとも一部は上達しました者もいました。その方法で20wpm位までできるようになった人を知っています。

熟練講師によればどんな種類であれ短点・長点の印刷物や絵で表現した教材は符号学習の進度をを妨げるだけであると言っています。第13章にその理由を説明してあります。

そういった方法の全ては良い教授方法に反しています。なぜなら符号の本来使われる状況に沿っていないし、実際の音声パターンにも沿っていないからです。それに、それらの方法は(いずれ忘れなければ上達できない)符号そのものとは別の何かを余計に覚えなければなりません。最初はその方法のほうが簡単に思えても、上達するにはそれらの方法は難しく、不可能でさえあります。賢明な講師や生徒はこれらのアプローチを選びません。
 

したがい、

あるオールドタイマーは印刷した符号表から符号を覚えた人ですが、ある日突然、電球がパッと点灯したごとく、音声パターンが文字そのものであることに気がつきました。その日以来急速に上達し始めたと言うことです。
 

間違った練習は無用
Arnold Klein N6GAP は言いました「長年の間、エクストラ級になるために20wpmの符号をコピーするという単純な目標に挑戦してきた」

彼は符号のことを考えない時が無いくらいたくさんの時間を練習に費やしました。彼はカセットテープが磨り減るくらい、車の運転、草刈り、拭き掃除、ガーデニング、昼の散歩、夜の糸巻き、夕食の皿洗い、ソフトボール観戦、など四六時中イヤホンをして頭の中でコピーする練習をしました。病院での待ち時間、奥さんの買い物を車で待っている間、夜は自分のシャックで、符号をコピーしました。白髪のいい年をした男がイヤホンをして書き取りつづけたのです。

「結果はがっかりするものでした。20~24wpmあたりで決まってパニックになってしまい、続けられなかった。」――「がけっぷちの限界」――まさに彼が経験していたことです。問題は自分が行っている間違ったやり方に気がつかなかったことです。試験にパスした人達に尋ねると、お決まりの答えは:練習です。「彼にとっての練習は、それまでの練習をしないことだったのです。」

かれはここに書かれていることを読んで次のように書いています「符号をマスターすると言うことは一生かけてやることで、わたしはそうすることに決めた。続けなければならないというプレッシャーを無くしてゆきます。平常心であることが私の新たな命題です。私が長年続けていた問題がようやくわかりました。」

本書で推奨している方法は歴史的に実証されたもの、実行価値のある方法です。
 

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