縦ぶり電鍵の打ち方 by JA1VJQ

縦ぶり電鍵使用の現状

短波帯、VUHF帯でのCWの交信をワッチしていると、7−8割の方がエレキー又はバグキーでの交信を楽しんでいます。縦振り電鍵の方は完全に少数派になっています。 この理由は極めて単純で、縦振りキーで高速かつ正確な打鍵を長時間行うことが、大変難しいからです。 私は初心者の方はエレキーを使うべきと、以前から主張しています。 ところが、日本のOM諸氏の中には、いまだに初心者は縦振りキーから入り、符号の感覚を完全に掴んでから、他のキーに挑戦せよなどという時代遅れの考え方が蔓延しています。

その結果どうなったか?ただでさえ難しい縦振りを購入した初心者は、よほど幸運に恵まれた人を除き、ほとんどの人が適正なアドバイスを与える指導者もなく、無責任にさあ飛べと空に放たれてしまいます。その結果、個性と言うには程遠い、乱れた縦ぶりコードの氾濫となり、ときどき『モールスコードを使って下さい』と相手に送信するはめになります。これは、女性に対し『あなたブスですね』と直接言うくらい失礼なんですが、判らないものは仕方が無いです。
電信各OM諸氏は、胸に手を当てて思い起こして下さい。縦振りが基本であると主張するあなたは、一体どの程度縦振り電鍵を長時間、正確に送出できますか? 貴方の縦振り電鍵は押し入れで埃を被っていませんか?自分が使いもしないキーを、初心者に押しつけていませんか?

このような乱れたコードを聞かされるのは、カラオケで隣の親父の音痴な歌を無理やり聞かされるような苦痛を相手に与えます。
大体、手送りコードを他人に聞いて貰った場合、自分の思っているよりも、約6dB程度下手に聞こえます。HI 
基本となる1:3のコード長、スペースの感覚を習得するには、エレキーに勝るものはありません。所詮アマチュアであるので、どんな打ち方をしても本人の自由ですが、無線には相手がいます。相手に苦痛を与えないような符号を送出しましょう。また、自己流の打ち方は、押しなべて長時間(3−4時間以上)の連続打鍵に耐えないという共通点があります。実際、綺麗な縦振り電鍵によるコードを聞く機会が少なくなって、危機感を覚えてこの文章を書くことになりました。私はこれを伝統芸能と位置付け、将来は人間国宝を目指しNHKの取材に準備しています。HI

反動式による縦振り電鍵の打鍵

これから説明する打鍵方法は自己流でしたが、図らずもそれが反動式と同じであることが判り、そして、あるアマチュア局が調べたところ、昭和の初期に電信局でトラフィック・ハンドリングをしていた、彼のお祖母さんのたたき方とほぼ正確に一致していました。
こうしたプロのオペレータは、電信電話局で一日何時間にも渡る打鍵をしていました。彼女らは、効率的で疲れない打鍵をしていたに違い有りません。英文で毎分90−100字以上は、反動式の世界になります。

要点を申し上げます。 アドバイスを受ける場合は、まともに打てる人のアドバイスを聞いてください。 少なくとも3時間以上は連続に打てる方であること。 それのできる方は、反動法を正確に適用しているという共通点があります。 そして、これはほぼ1世紀の長きに渡って踏襲されてきた方法でもあります。
従来からの反動式の説明で、徹底的に見過ごされているのは、どの様に力が加わっているのかという、最も重要な点がおろそかにされていることです。手首の位置などは、単なる結果であり、もっと重要な短点・長点の送出時にどのような力配分が成されているかの記述がほとんどありません。『木を見て森を見ず』のような説明です。

1)長点の打ち方
人差し指と中指を揃えて、通常の電鍵のノブを押す気持ちで机の上に置きます。机の面がノブの考えて下さい。 この状態で気付くのは、上腕と肘から先の重量をすべて2本の指が支えていることを感じとれるはずです。 これが、連続3−5時間の打鍵が可能になる秘密です。 即ち、長点を打つとき腕全体を、電鍵に寄りかかって休めるからです。 さらにこれは、電鍵操作時に腕全体を支える効果を出すために、ばねが重くなる理由とも関連します。

さて、この状態では手の甲−手首−下腕−肘までが水平に保たれていますね。この状態で、机の上で、符号『0』又は和文の『レ』を送って見てください。

重要なのは、この3つの長点を腕全体(手首−下腕−肘)を押し下げて作るのではなく、手首の高さを上に上げて作るのです。 そして、これは非常に微妙な感覚ですが、手首は長音の開始時、即ち接点が閉じた時に上がるのではなく、各長音の最期の瞬間に一呼吸遅れたタイミングで手首が上がります。 さらに、三つ目の長点を送る時の手首の高さは、最初の長点送出時より少し上の位置で符号を作っています。

長点は、ドン亀用の按下式のように腕全体(手首−下腕−肘)を下げて作るのではなく、手首の位置を上げて作るのです。 実際に試して、按下式と反動式の差を実感して下さい。 机の上で試すと、自分が長点を打ち始めたタイミングより、少し遅れて手首が上がるのに気付くでしょう。 これが反動式のタイミングで、この感覚が判ればしめたものです。 そして、この時、同時に手がほんの僅か前方に傾くのに気付くでしょう。 最初に手首を『上げて』作ると言いましたが、反動式の場合、実際には『結果として上がる』のです。【事務局注】

2)短点の打ち方
長点はなんとかこなしても、短点が正確に打てないために、挫折する人が多いと思います。 短点は手の甲と人差し指、中指の筋肉だけで発生させます。手首と腕の力は使いません。 この感覚を理解するために、また机の上で演習を行います。

手首の下側を、完全に机の上に乗せてリラックスしてください。 そして、手の甲と2本の指で机をトントン叩いてください。 中国でお茶を注いで貰った時に、有難うの意味になりますね。 短点はこのようにして発生させます。 このトントン叩く練習をすると、あまりスピードが上がらないことに、苛立つかもしれません。 しかし、反動式の比較的強いバネ設定による下からの反動で、この実験より速い短点を作ることが出きる様になりますから、安心して下さい。

実際の打鍵では、短点を打つ際には、自分の腕の重量は自分の腕で支えることになります。

これは極めて重要な指摘であり、長点を打つ際は、自分の腕の重量をキーに預けて休みの態勢に入っても良いが、短点の際は、自分の腕の重さは完全に自分で支えるようにします。 ほんの僅かでも腕の重さがキーに掛かると、スムーズな短点の送出が困難になります。 本当に大事な点です。 トトトトトと指と甲の筋肉を緊張させ素早く動かしながら、かつ腕の重量は自分の腕で支えている状態です。 この腕重量を支える方法を、短点長点で如何に素早く切りかえることが出来るようになるかが、本稿で一番重要な指摘です。

短点での手首の高さは、それほど重要ではありません。 長点の送出時よりやや下がる傾向がありますが、前後の符号しだいで手首の位置は変化するからです。 上達してくると、短点、長点の送出とともに動く手首や全体の上下動は少なくなってきます。

動画(YouTube)

打鍵の瞬間 :長点 打鍵の瞬間 :短点
3)縦振り電鍵の設定
ばね重量は300g以上にします。 重さの目安は、腕の全重量を掛けた時、接点が閉じる。 軽く構えて手をノブに添えた状態では、下に落ちるか落ちないかのぎりぎりの強さです。 従って、腕の太い方はばね設定が重くなります。 一般的には、かなり重い設定と感じるはずです。
接点間隔は0.3mmから0.4mm程度です。 最初は広めで練習を開始します。 これも、かなり広く感じるはずです。 接点は重め、間隔はカタカタと音が響くように広くが正解です。

4)縦振り電鍵の練習のしかた
最初はなじまないと思いますが、初心者、上級者でも調子の悪いときは、比較的大げさにゆっくり打つようにします。 接点間隔を空け、カチカチと大きな音をさせながら打つのが、縦ぶれで正確な符号を長時間打てるようになる極意です。 他に選択肢はありません。 隣で誰かが寝てる場合は、練習しない方が良いと思います。 反動式で一番疲れる部分は、自分の経験では手の甲の筋肉です。 縦ぶりのコンテストで最大5時間くらいのランニングを行いますが、最期にはこの部分に力が入らず短点の符号が乱れる事があります。 暖めて対処していますが、皆さんはそんなに無理せず、私に優勝させてください。HI

5)縦振り電鍵の電鍵の選定
接点は銀接点かタングステンの接点が主流です。 柔らかい吸いつくような餅肌タッチが好きな方は銀接点、ハードな感覚が好きな方はタングステンになります。 これは好みですが、私は餅肌ですね。HI
接点位置が一般的な手前にあるタイプと、タッチの柔らかな、キーの奥に金属舌があるタイプがあります。 後者のタイプでお勧めできるのは、『スエーデン・キー』と呼ばれているキーだけです。その他の奥に金属舌がある市販のタイプは、特にバネを緩くして打つ人は、材質の関係でチャッタリングが起き易くなります。当たりの瞬間に、特有の『ビーン』という振動が起きます。反動式でバネを重くし、しっかりした打鍵が可能な人では、どの金属舌接点のタイプの電鍵でも、問題は起こりませんが、『スエーデン・キー』とのタッチ感覚の良さの差が大きいので、メーカの材質改善を期待します。

カバーは、プラスチックで防塵しているタイプが多いと思います。 市販の縦振り電鍵のカバーには、反動式のためバネの設定を強くすると、設定ネジとカバーが当たってしまう製品があるので、要注意です。
ノブは中指と人指し指が垂直になる打ち方では、丸みのあるプラスチック又はベークライトが良いと思います。ホームセンタで同じ大きさと形状の木製の引き出し用のつまみがあれば、滑らないノブとして使えます。 米国式のノブの平たいものは、少し2本の指を、垂直から前方に寝かすようにしても、反動式で対応可能です。
価格は、上記に注意して一万円台の製品を買えば、一生付合って行けるでしょう。 間違ってもアンティーク電鍵を、普段の使用キーにしようとしないこと。あれはシャックの飾りです。以上が反動式による正しいプロの打ち方、および付随するアドバイスです。 


<追補1>
『キーイングしていると、人差し指と中指が一定の場所 に固定できない。打っている内に、ツマミの前の方へ 行ったり後ろの方へ行ったりと固定しない。』という質問があった。
これはとっても良い質問です。

答え:キーイングのどの瞬間でも、指の先端に軽い下方向への圧を掛けること。だから正しい打鍵の方法ではノブを
押している位置は動かない。もちろんこの軽い連続した加圧が強すぎると接点が付いてしまうから、もちろんそれ以下の緩い圧力になる。これは必須の技です。そのメリットは:

1)場所が動かないので打鍵が安定する。
2)この圧の掛け方はとても重要であり、長点のウエイトに大き影響する。圧を上げれば、トローローと粘って来
   るし、下げると『都津津津津』と長点が寸詰まりでみっともない。試して実感してほしい。

これはバグでも同じです。長点を出す場合、どんな瞬間でも、人指し指はパドルのプラスチックから離さないのがコツ。

以上の、連続した加圧は、自分では気付いておらず、今回 JP2RDH佐々木氏の指摘であり、ここにクレジットとして名前を記します。

<追補2>
そのほかに、親指は決してノブをつまんではいけない。 返って打鍵を阻害します。
キーイング中には、親指の位置は、触れるか触れないかくらいの位置にすること。

【事務局注】長点の作り方でここにある表現を誤解して,手首の反動を忘れ手首の位置だけがどんどん高くなる風に覚えてしまう方がいますのでご注意ください. プロが教える「反動式」の動画をこちらに収録していますので,是非ご覧ください. 手首が一瞬上がるのは打鍵時ではなく打鍵の直前のみです.


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